半導体業界への転職。選考が進んで、内定も見えてきた。
それなのに「半導体 リストラ」で検索してしまって、手が止まっていませんか。
あるいは家族に「半導体って景気の波が大きいって聞くけど、大丈夫なの?」と聞かれて、うまく答えられなかったとか。
先に、私の結論を書いておきます。
株の投資をしているなら、その心配はした方がいいと思います。でも中で働くのであれば、そんなに気にしなくて大丈夫。これが現場歴約10年の、正直な実感です。
この記事では、シリコンサイクルという言葉の意味から、実際に不況が来たとき現場で何が起きるのかまで、良い面も不安な面も含めて書きます。
読み終える頃には、あなた自身の言葉で「なぜ大丈夫だと思うのか」を説明できるようになっているはずです。
この記事でわかること
- シリコンサイクル(半導体の好不況の波)が起きる仕組み
- 過去の不況で、実際に何が起きたのか
- 現場のエンジニアは、その波をどこまで感じるのか
- もし不況が来たら、身に何が起きるのか(順番があります)
結論
先に、この記事の答えをまとめておきます。
- シリコンサイクル(好不況の波)は実在する。でも現場の働き方に直結するわけではない
- 不況が来ても、いきなりリストラにはならない。残業の抑制、人員配置の調整、という順番がある
- 会社が傾いても、行き場を失うとは限らない。ただし条件がひとつある
最後の「条件がひとつある」というところ。ここがいちばん大事だと思っているので、後半でしっかり書きます。
では、ひとつずつ見ていきます。
シリコンサイクルとは何か
先にお断りしておくと、私は業界の重鎮でも、経済の専門家でもありません。あくまで現場で10年やってきた一人の目線の話です。
その上で、まず言葉の整理から。
半導体業界には、約3〜4年の周期で好況と不況を繰り返す傾向があります。これをシリコンサイクルと呼びます。
なぜ周期ができるのか。理由はシンプルで、工場を建てるのに何年もかかるからです。
足りない、と気づいて工場を作り始める。完成する頃には需要が落ち着いている。すると今度は作りすぎて余る。そしてまた足りなくなる。この繰り返しです。
ちなみに最近は「スーパーサイクル」という言葉もよく聞きます。AI向けの需要が続いていて、好況が従来より長く続くのではないか、という見方です。
ただ、それが本当なのかは業界でも意見が分かれています。私も正直、よくわかりません。
過去の不況では、実際に何が起きたのか
言葉の説明だけでは不安は消えないと思うので、公開されている事実を挙げます。
まず、よく知られているのがエルピーダメモリです。2012年に経営破綻しました。
ただ、ここには続きがあります。その後マイクロンが買収し、技術者は「マイクロン・メモリ・ジャパン」として仕事を続けています。
会社がなくなった。でも、そこで働いていた人が路頭に迷ったわけではなかった。ここは覚えておいていい事実だと思います。
一方で、良い話ばかりでもありません。キオクシアは2023年9月に早期退職を募集しました(対象は56歳以上)。
波があるのは事実です。それは隠しても仕方がありません。
プロセスエンジニアは、波をどこまで感じるのか
ここからは私自身の体感の話です。
正直に言うと、シリコンサイクルをタイムリーに感じたことは、ほとんどありません。
世間で「半導体は不調だ」と報じられているときも、現場でその空気を直接感じたかというと、そうでもなかった。
理由は、私が生産の数量を直接追う立場ではないからだと思います。
私の仕事は、お客様のところで起きた問題を解決したり、新しい取り組みを進めたりすることが中心です。改善のための検討にも時間を使います。
この辺りの働き方は、別記事「半導体プロセスエンジニアの1日は?現役10年が明かす仕事内容とリアル」に詳しく書きました。
売上に直結する部署ではないので、数字の増減がそのまま働き方に響くわけではないんですね。
ただ、まったく何も感じないかというと、そうでもありません。
不調と言われる少し前は、技術的な相談や依頼が減った気がします。トラブル対応の件数も少なくなる。
逆に、これから盛り上がるという時期は、期限のはっきり決まった案件が増えます。お客様もその期限に向けて動くので、こちらも一気に忙しくなる。
あとから振り返ると、あの忙しさは景気が上向く前兆だったのかもしれない、と思うことがあります。
でも、それくらいです。「波が来た」とはっきり体感するようなことは、あまりない。
私の忙しさは、景気というよりプロジェクト単位で決まっているというのが実感です。
これって、他の業界の人から見るとどう映るんでしょうね。生産の現場に近い方なら、また全然違う答えになる気もします。
唯一わかりやすいシグナルは「残業を抑えろ」
とはいえ、ひとつだけ、はっきりと空気が変わる瞬間があります。
「残業を抑えてくれ」と言われるときです。
普段は、やるべきことがあれば残業してもいい、という雰囲気の職場です。むしろ真剣に取り組む人が多いので、自然と時間は伸びがちです。
それが突然、「残業を抑えてくれ。どうしても必要な場合は理由を説明してほしい」に変わる。
部署の業績の数字が一般の社員まで下りてくるわけではありません。それでも、この指示が来ると「ああ、いま厳しいんだな」と伝わってきます。
数字ではなく、運用の変化で状況を知る。そんな感じです。
ちなみに、そういう時期に何を考えたか。正直に書くと、転職のことは頭をよぎりました。「自分に何ができて、どこにチャンスがあるんだろう」と。
ただ、当時は若かったので「まあどこでも行けるだろう」と本気で考えてはいませんでした。むしろ「早く帰れる」と思っていたくらいです。
今、同じことを言われたらどうか。たぶん転職サイトを開くと思います。10年経つと、そうも言っていられないですね。
ただ、すぐに動くかというと、それも違う気がしています。しばらく様子を見て、落ち着いてからどうするか考えてみることになるかなと。
忙しさの真っ只中で判断すると、たいてい「しんどい」が先に立ってしまうので。
もし不況が来たら、プロセスエンジニアの身に何が起きるのか
ここが、いちばん気になるところだと思います。
私の経験の範囲で言うと、いきなりリストラ、という話にはなりません。順番があります。
| 段階 | 現場で起きること |
|---|---|
| 1 | 残業の抑制。「必要な場合は理由を説明」と言われるようになる |
| 2 | 社内の人員配置の調整。調子のいい部署へ人が移っていく |
| 3 | それでも厳しければ、部署の縮小や、会社としての判断(買収など) |
実際、私の部署の業績が悪かった時期に、人数が大きく減ったことがあります。
でもそれは、辞めたわけではありません。調子のいい部署へ異動していっただけです。
そして私は、残る側でした。
そのときの気持ちは、正直かなり複雑でした。
調子の悪い部署に残るということは、この先も戻らなかったら、異動していった人たちの方が経験を積めるのではないか。市場価値も上がるのではないか。
「一緒に行きたかったな」と思ったのは本音です。
でも同時に、こうも思いました。異動させずに残したということは、ここでの働きをある程度買ってくれていて、引き続き頼むという意味でもあるのかもしれない、と。
そう考えたら、「よし、もう少し頑張ってみるか」という気持ちになりました。
異動すると、職種は変わってしまうのか
ここも心配な方が多いと思うので書いておきます。
私が見てきた範囲では、職種が変わらない人が大半でした。
変わった人もいます。ただ、自分から希望した人もいますし、そうでない場合も「前の部署との関わりがあるからこそ活躍できる場所」が選ばれていました。
適当にどこかへ放り込んで、あとは勝手に慣れてくれ。そういう扱いは見たことがありません。異動先に活躍の場があるかを考えた上で決めてくれている、という誠意は感じました。
希望が通るかどうかについても、毎年、働き方や悩みについて面談する機会があります。そこで出した希望が、異動先の判断で考慮されていたという話も聞きました。
もっとも、これはあくまで私のいる会社の話です。他社がどうなのかまではわかりません。
会社が傾いたら、行き場を失うのか
ここについては、私はそこまで悲観していません。
仮に会社が厳しくなっても、いきなり働く場所がなくなるとは思わないんです。
買収されて、そのままその部署で働くという道もあります。実際、先ほど書いたエルピーダの例がまさにそうでした。
関連する会社は他にもありますし、似た働き方をしている場所もあります。移ろうと思えば、移れるのではないかと思っています。
ただし、条件があります。
真面目に働いてきて、自分がどんな仕事をしてきたかを、ちゃんと語れる人であれば——という条件です。
ここは、正直に書いておきたいところでした。
ちなみに数字の面でも、多少の裏付けはあります。
厚生労働省の職業情報サイト「job tag」(さまざまな職業の統計をまとめた公的サイト)によると、半導体技術者の正規雇用の割合は92%。有効求人倍率は1.09です(令和6年度)。
少なくとも、人手が余っている職種ではありません。
今の好況は本物なのか
いまは明るいニュースが続いています。
ラピダスは2026年2月に総額2,676億円の資金調達を発表しました。TSMCの熊本第2工場では、3nm世代の生産が検討されていると報じられています。
人材の面でも、電気機械の分野では65%の企業が技術職の不足を感じているという調査があります。
では、この好況をどう見ているか。
買い手が増えること自体は、悪い話ではありません。ただ実需に基づく動きなのかどうかは、正直まだわかりません。結果が出るのはこれからだからです。
ひとつ、印象に残っている話があります。
かつて日本の半導体が世界を席巻していた時代の技術者たちが、いまの立ち上げを支えていると聞きました。
あの世代のエネルギーは、年を重ねても変わらないんだろうなと思います。ゆとり世代だZ世代だと言われる私たちから見ると、当時の働き方は本当にすごい。
心強いですし、応援したくなります。
とはいえ、まだ売上に結びついているわけではない立ち上げの段階です。期待半分、不安半分。それが現場から見た正直な温度感です。
まとめ:もし家族に聞かれたら、私はこう答えます
冒頭に書いた3つの理由、それぞれの中身をここまでで見てきました。
そして最後に残った「条件」が、これです。
✓ 唯一の条件
真面目に働いてきて、自分がどんな仕事をしてきたかを、ちゃんと語れること。
景気は自分ではどうにもできませんが、これは自分で積み上げられます。
もし家族や友人に「半導体って景気の波が大きいけど、大丈夫なの?」と聞かれたら、私はこう答えます。
「株の投資をしているなら、その心配はした方がいい。でも中で働くんだったら、そんなに気にしなくて大丈夫だよ」
波は確かにあります。でもそれは、投資する人が気にする波であって、働く人の生活を毎回ひっくり返すような波ではない、というのが10年やってきた実感です。
最後に、いま内定を前に迷っている方へ。
景気の波は、自分の働き方に大きな影響を与えるものではないので、そんなに気にしなくていいと思います。
それよりも、世界のあらゆる電子機器を動かしている半導体の業界で、自分は何を残せるか。何を新しく生めるか。どう活躍して、どう業界を支えるか。
そこを考えて働いていると、景気の波は気にならなくなります。
景気が下がったからといって、自分の考え方まで変える必要はありません。まっすぐ取り組んでいけば、必ずまた戻ってくる波ですから。
目の前のことに集中して積み上げれば、それはちゃんと結果につながります。
内定が取れたのなら、それは「この業界でやっていける」というお墨付きです。人事の方もちゃんと見ています。
あとは、思い切ってやるだけだと思いますよ。
この仕事が自分に向いているかどうかが気になった方は、別記事「半導体業界への転職、後悔する人・しない人の分かれ道【現場10年目線】」もどうぞ。
お金の話は「半導体エンジニアの年収は本当に高い?」に。
現場の環境そのものについては「クリーンルーム勤務はきつい?現場歴10年の本音」に書いています。

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